こういう生活はもう送れないなー・・・
そう彼女が呟くと、隣に座っていたもう一人の友人も頷いた。
昔昔、北京に留学していた頃のこと。
私は構内にある留学生寮の二人部屋に住んでいた。
そこへ日本企業の駐在員として上海に住んでいた元同級生の二人が、はるばる訪ねて来てくれたのだった。
積もる話に花が咲く、中国に青春を捧げた女子三人。
やがて、机とベッドと簡易な衣装ダンスしかないこのささやかな居住空間を見渡し、一人がぽつんとつぶやいた。それが冒頭の言葉。
こういう生活はもう送れないなー・・・
私はぽかんとした。
え?何で?
もう一人の友人は、彼女が言わんとするところがすぐにわかったようだった。
要するに、質素でいろいろと制限があるビンボー学生生活なんてもうできん、ということらしかった。
実に率直な感想ではないか(笑)
えーーー!
私は心底驚いた。
なぜなら、私は長年の夢だった中国留学を果たし、社会主義体制の空気がそこかしこに漂うこの首都北京で、楽しく充実した学生生活を謳歌していたところだったので。
ローカル感覚を味わいたくて、国営市場をのぞいては現地の物を買い、好んで現地の女の子のようなファッションをしていた。
実際、口を開かなければ化粧気がなく背の高い私は中国人で通っていた。
たぶん周りの学生も大なり小なりそんな感じで、駐在員として会社や日本を背負っている人とは感覚にずれがあっても仕方ない。
友人の一言で、同じ中国ラバーズであっても、その関わり方によって、見える世界はちがうのだなと知った。
写真は、その舞台になった中央戯劇学院の留学生寮。私は最初2階に住んでいて、後に3階に引越した。
一昨年の秋に再訪したら、外観は変わっていなかったが、中は学校の事務所として使われており、住んでいる学生はいないらしかった。
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